短期間しか着用されないユニフォームでも、人々の心に深く残るデザインがある。
2025年に開催される大阪・関西万博(Expo 2025 Osaka, Kansai, Japan)では、ボランティアやスタッフのユニフォームが発表直後から注目を集めた。
「記念に残したくなる」「着ることで一体感を感じる」――そんな服づくりの背景には、社会的意義とデザイン性の両立がある。
本稿では、万博の公式ユニフォームを例に、一時的な服が長く記憶に残る理由を読み解く。
万博ユニフォームの概要
2025年日本国際博覧会協会が2024年4月に発表した公式デザインでは、ボランティア用ユニフォームはSDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」を象徴するネイビーを基調としている。
構成はTシャツ、ベスト、キャップ、ポシェットなど。
会場内ではネイビー×グレー、市内活動ではネイビー×イエローの組み合わせで、高い視認性と落ち着きの両立を実現した。
公式発表:「Uniform design for Expo 2025 Osaka, Kansai Japan」/日本国際博覧会協会
スタッフユニフォームは白を基調に、SDGsカラー(赤・緑・青など)をアクセントとして配色。明るく清潔感のあるデザインで、国際的な多様性と未来志向を感じさせる。
また、公式発表によると、会期後も記念として保有できる仕様が想定されており、“使い捨てではないユニフォーム”として注目を集めている。
国際博覧会機関(BIE)も公式ブログでこのユニフォームを取り上げ、「Expo 2025で注目すべき5つの制服の一つ」として紹介している。
BIE公式:「5 Eye-catching Uniforms at Expo 2025 Osaka Kansai」
設計思想に見る3つのポイント
1. 「色」による物語づくり
ネイビーは「信頼」「誠実」「落ち着き」を象徴し、ボランティアの献身や安心感を直感的に伝える。
市内活動では、イエローを差し色に使い高コントラストで視認性を高める工夫がなされている。
このように「色そのものがメッセージ」となるデザインは、イベントの理念をより強く印象づける。
2. 「着ることで誇りが生まれる」設計
「会期終了後も記念に持ち帰れる」仕様は、ボランティアの誇りと参加意識を高めている。
服が単なる作業着ではなく、「歴史的な国際イベントに関わった証」として残る。
ユニフォームが体験の象徴=記憶の媒体となっている点が特徴的だ。
3. 「視認性」と「快適性」のバランス
炎天下での長時間活動を考慮し、軽量ストレッチ素材や高通気メッシュが採用されている。
ベストには無線・モバイル収納ポケットがあり、運営効率にも配慮。
人に見つけてもらえる服・動きやすい服・写真に映える服という三要素を高次元で融合している。
なぜ記憶に残るのか
- ・共感性の高いテーマ
SDGsとの接続により「未来志向」「連帯」のストーリーが明確。社会的意義を感じるデザインは、人の記憶に残りやすい。 - ・感情とともに記憶される
ボランティアが達成感や誇りを感じる瞬間に着ている服は、その感情と一緒に記憶に残る。 - ・SNS時代の拡散性
配色と統一感が写真映えし、自然とSNSで共有される。公式ハッシュタグの広がりは、デザインが「自ら拡散する力」を持っていることを証明している。
他イベントへの応用ポイント
- ・「記念化」を設計段階で組み込む
タグや刺繍にイベント名・開催年を入れることで“参加証明”としての価値を高める。 - ・役割別の配色展開
受付=ネイビー×白、誘導=ネイビー×イエロー、救護=グリーンなど、機能別に分けると運営が視覚的に整理される。 - ・地域連動デザイン
開催地のシンボルカラーや建築モチーフを取り入れ、街全体を広告的に見せる発想。 - ・快適性と持続性の両立
吸汗速乾・防臭・UVカットなどの機能素材を使い、着心地=信頼感へと変換する。
KPI設計(効果を測る視点)
| カテゴリ | 指標例 |
|---|---|
| 運用KPI | 配布効率、役割別の識別時間、スタッフ配置精度 |
| 満足度KPI | 着心地・デザイン・サイズ感の満足度アンケート |
| SNS拡散KPI | ハッシュタグ投稿数、リーチ、UGC生成率 |
| 記念性KPI | 会期後の保有率・再着用率、オークション等での再流通件数 |
デザインチェックリスト
- ・色:理念を反映したメインカラー+高視認アクセント
- ・素材:軽量・防シワ・通気性・耐久性
- ・ロゴ配置:前後で統一、写真写りを想定
- ・サイズ展開:ジェンダーフリー・世代対応
- パッケージ:開封時の体験を設計(説明書やタグも統一デザイン)
まとめ
大阪・関西万博のユニフォームは、“一過性のイベント服”を超えた社会的デザインの成功例である。
機能性だけでなく、理念・誇り・記憶を同時に設計することで、人の心に残る服になった。
そのデザイン哲学は、企業イベント・地域行事・ブランドキャンペーンなど、あらゆる場に応用できる。
服が語る物語は、時に言葉よりも雄弁だ。
「その場限りの装い」が「未来を象徴する記号」として残る――
大阪・関西万博のユニフォームは、まさにその可能性を示している。
これからのイベントユニフォームは、短期的なPRを超えて長期的なブランド価値の共有装置となることが求められるだろう。


