Date2025.10.23

【Vol.2】ウィンブルドン公式ユニフォームに学ぶ:ラルフ ローレンが築いた“永続するブランド記憶”の仕組み

【Vol.2】ウィンブルドン公式ユニフォームに学ぶ:ラルフ ローレンが築いた“永続するブランド記憶”の仕組み

要約

イベントやキャンペーンのユニフォームは、瞬間的な露出で終わることが多い。しかし中には、「その大会といえばこの装い」と、長く人々の記憶に残るデザインも存在する。
英国ウィンブルドン選手権の公式ユニフォームを手がける
ラルフ ローレン(Ralph Lauren)は、その好例だ。2006年から続くパートナーシップを通じて、「伝統と上品さ」「白の美学」というイベントの価値を服で体現し、ブランドの象徴性をさらに強化してきた。


ウィンブルドンとラルフ ローレンの関係

  • ラルフ ローレンは2006年からウィンブルドンの公式アウトフィッターを務め、審判、ボールパーソン、スタッフのユニフォームを提供している。
  • 2024年も継続して担当し、白とネイビーを基調にしたクラシックな装いが大会を彩った。
  • ブランド公式SNSでも、コートサイドで整然と並ぶスタッフの姿が世界中に配信されている。
    公式Ralph Lauren Wimbledonページ(https://www.ralphlauren.co.uk/wimbledon)

この長期契約は、スポーツ大会のユニフォームを単なる機能服ではなく、「大会そのものを象徴する視覚コード」へと昇華させた稀有な例だ。


なぜ人々の記憶に残るのか

1. 一貫した“白の品位”

ウィンブルドンは選手の服装規定に「白」を義務付けており、観客もそれを当然の美学として受け入れている。ラルフ ローレンはこの価値観に寄り添い、スタッフの装いも白×ネイビーの統一感でまとめた。
大会の写真や中継映像のどこを切り取っても、上品で清潔なトーンが維持されており、ブランドの世界観と大会の理念が完全に一致している。

2. ミクロな統一による「整った印象」

襟の高さ、ボタンの間隔、ストライプ幅、ベルトの位置など、細部まで統一された設計が「整って見える」体験を作る。人は細部の秩序を美と認識するため、こうしたミクロの共通ルールが「伝統の大会」という印象を支えている。

3. “毎年繰り返す”ことが記憶を定着させる

ラルフ ローレンは毎年わずかにデザインをアップデートするが、全体の構成は変えない。これにより視覚的な“反復”が生まれ、観る者の記憶に「ウィンブルドン=この装い」という連想が形成される。
短期イベントでも反復は可能であり、これがブランド認知の持続に直結する。


ブランド戦略としての示唆

1. イベントの“価値”と“服”を一致させる

ウィンブルドンは「伝統」「品位」「純粋な競技精神」を象徴する大会。ラルフ ローレンのデザインはそのメッセージを服に翻訳している。
短期イベントでも、まず「この場が伝えたい価値」を明確にし、それを色・素材・シルエットで具現化することが鍵となる。

2. 視覚的な一貫性を守る

ポスター、SNS投稿、会場サイン、スタッフユニフォーム――これらが同じトーンで統一されていると、イベント全体が“洗練されたブランド体験”として記憶に残る。
特にユニフォームは「人が動くサイン」であり、最も多くの人の目に触れる。ブランディングの最前線は服にあると言っても過言ではない。

3. “変えすぎない勇気”

一見新鮮に見せたいイベントほど、前年との連続性を意識することが重要。毎年テーマカラーを大きく変えると、ブランドコードが分散してしまう。
ラルフ ローレンが守るのは「核となる色と形」。変えるのはアクセントだけ。8割は同じ、2割で変化を出すという配分が、長期的な信頼を築く。


デザイン面でのポイント整理

項目内容
カラー設計イベントのキーカラーを優先。過度なロゴより「色と形」で印象を統一。
素材選定通気性・吸汗速乾・防シワを両立。長時間の着用でも清潔感を保つ。
構造立ち姿・歩行時・整列時の「見え方」をシミュレーション。
装飾小さな金ボタンやエンブレムなど、象徴性を宿すミニマル装飾を採用。
撮影耐性テレビやスマホカメラで白飛びしないよう、光沢を抑えた生地を選ぶ。

KPI設計(効果測定の考え方)

  • 露出KPI:メディア掲載件数・SNS投稿数・写真使用点数。
  • 想起KPI:「イベント名→装い」の連想率(アンケートやSNS分析)。
  • 運用KPI:ユニフォームの再利用率・クリーニング回数・保管耐性。
  • コストKPI:製造単価×露出数=CPM(コストパーイメージ)換算。

短期ユニフォームでも、広告効果を定量化すれば投資判断が容易になる。


他企業が応用できるポイント

  1. 企業主催イベントや周年記念に“統一コード”を設ける
     毎年の周年記念や社内表彰式なども、ユニフォームデザインを固定化することで「自社らしさ」を強化できる。
  2. ボランティア・スタッフを“ブランドの一部”にする
     参加者が誇りを持てる装いは、写真やSNS投稿を通じて二次的な広報効果を生む。
  3. サステナビリティとの連動
     ウィンブルドンでは再利用可能な素材を積極的に導入。イベントユニフォームも、「その場限りで終わらせない」設計が求められる。

まとめ

ウィンブルドンの公式ユニフォームが長く記憶に残る理由は、単なるデザインの美しさではなく、

  • ・大会の理念と服の方向性が一致していること
  • ・微細なルールを守り抜くことで“整って見える”体験を提供していること
  • ・年次を超えて継続する**「反復の力」**を活かしていること

にある。

イベントやキャンペーンのユニフォームを設計する際は、これらの原則を自社の文脈に置き換え、「短期で終わらない記憶」をつくることが鍵だ。