Date2025.09.11

日本航空の新ユニフォームが国際的な信頼感を高める、デザイン、機能、インクルーシブを両立したブランディング戦略

日本航空の新ユニフォームが国際的な信頼感を高める、デザイン、機能、インクルーシブを両立したブランディング戦略

制服は企業の“約束”を可視化する

航空会社にとって制服は、単なる業務服ではなく「安全・品質・ホスピタリティ」という約束を目に見える形にしたブランド媒体だ。とりわけ国際線では、制服が第一印象を決め、企業文化の成熟度や多様性への姿勢まで読み取られる。本稿では、日本航空(JAL)が2020年に導入した新ユニフォームを手がかりに、デザイン刷新がどのように国際的な信頼感の増幅装置になり得るかを、事実に基づき解説する。


1. 2020年導入の背景:7年ぶりの刷新と全社的リブランディング

JALは2019年7月に新ユニフォームを発表し、2020年4月から着用を開始した。客室乗務員(CA)は11代目、空港の地上係員(GS)は7代目となる。刷新の狙いは、国際舞台での一貫したブランド表現と機能性のアップデートだ。デザイナーはファッションブランド「EZUMi」の江角泰俊氏。「Hybrid Modern Beauty(ハイブリッド・モダン・ビューティー)」をテーマに、鶴を想起させる曲線シルエットや、動きやすさを高めるパターンメイキングが採用された。


2. デザイン言語:鶴の曲線、チャコールグレー、そして所作の美しさ

新制服は黒に近いチャコールグレーを基調に、JALの象徴である鶴丸やブランドカラーを適所に配した。ワンピースは立体裁断により「鶴の曲線」を描き、膨らみのあるスリーブなど航空業界では珍しい要素も取り入れている。これらは、遠目の視認性と近距離の上質感を両立し、写真や動画にも映える“国際線目線”の設計だ。


3. インクルーシブな選択肢:パンツ導入と女性パイロット専用設計

JALは今回の刷新で、CAにパンツスタイルを正式採用。日々の業務動線や個人の嗜好に応じてスカート/パンツを選べるようにした。さらにパイロットでは、女性向けの新設計を初めて導入し、スカーフ(鶴の折り紙モチーフ)をネクタイ代替として選択可能にするなど、性別や体格差に配慮した設計が進んだ。インクルーシブな選択肢は、国籍・ジェンダーの多様なお客さまに対する“組織の姿勢”そのものを示す。


4. 現場起点の共創:顧客・社員の声を集めたプロジェクト設計

刷新に先立ち、JALは2019年1月に「みんなのJAL 2020新制服プロジェクト」を立ち上げ、一般顧客・ファンからデザイン案への意見を募集。そこで得た声をデザイナーにフィードバックし、各職種の機能要件に反映した。制服は“着る側の使い勝手”と“見る側の印象”の両方を満たしてこそ効果を発揮する。開発プロセスの段階から両者のインサイトを統合した点が、JALの刷新を成功に導いた。


5. 職種横断で“同じ物語”を語る:パイロット、CA、GS、整備、グラハン

刷新はCAだけでなく、パイロット、整備士、グラウンドハンドリング(グラハン)、ラウンジや空港カウンターのスタッフまで広がる。全職種を貫くビジュアル言語(カラー、エンブレム、シルエット)を設定しつつ、それぞれの動作・安全要件に合わせて機能を最適化した。見る側には“ひとつのブランド”としての統一感が伝わり、働く側には“同じ方向を向いている”一体感が生まれる。


6. 国際的信頼感を高める3つの要素

(1) 一貫性と記号性の強化
国際空港の雑踏や機内の照明環境でも識別しやすいカラーとシルエットは、安心感の記号として機能する。チャコールグレー×鶴曲線の組み合わせは、写真・動画・SNSにおいても再現性が高い

(2) 機能性=安全・品質の“土台”
長時間フライトや非常時対応における可動域、耐久性、収納性——これらの設計は、ホスピタリティ以前に“安全運航を支える装備”である。JALは現場の所作が美しく見えるようパターンを工夫し、実務の質と見た目の美しさを同時に高めた。

(3) インクルーシブ・デザイン=多文化対応の宣言
パンツの選択肢や女性パイロット専用設計は、多様性へのコミットメントを外見から伝える。これは、世界の空で働くスタッフの自尊心を高めると同時に、利用者の信頼を醸成する。


7. 中堅・地域企業が学べる“10の実装ポイント”(WANSIE UNIFORM視点)

  • ブランド物語の抽出:企業のアイコン(ロゴ・色・モチーフ)を“3秒で伝わる”服飾言語に翻訳する。
  • ・職種別の動作解析:接客・警備・運搬・受付など、動作ごとの可動域と耐久ポイントを見える化。
  • ・現場・顧客の共創:プロトタイプに対し、従業員と顧客のABテストを実施。見た目と機能の両立をデータで判断。
  • ・インクルーシブ設計:パンツ/スカート、ヒール/フラットなど複数選択肢を標準仕様に。ユニセックスの型紙も用意。
  • ・素材の持続可能性:再生ポリエステルや抗菌・防汚加工など、運用コストと衛生を両立。
  • ・所作の美しさを演出:視線誘導線(ラペル、カッティング、配色)で、動きが美しく見える構造線を設計。
  • ・メンテ計画込みで設計:洗濯耐久、補修、サイズ交換の運用ルールを初期段階で決める。
  • ・写真・動画で検証:SNSや採用広報で映えるか、各照明環境で色再現が安定するかを撮影で確認。
  • ・危機対応をデザインに内包:非常時の視認性、名札・通信機器の位置、救命具との干渉を事前検証。
  • ・ローンチの広報台本:発表会・特設ページ・社員の声を連動させ、刷新の意図を“言葉”でも届ける。JALのアンケート型プロジェクトは有効な参考事例だ。

8. よくある疑問に答えるQ&A

Q1. “国際的に通用する”制服の見分け方は?
A. 遠目の識別性、近距離の上質感、そして多様な体型に合う可変性。この3つが同時に満たされているかで判断できる。JALの刷新はこの条件を満たした。

Q2. デザインを変えるだけで現場は変わるのか?
A. 制服は“象徴”であり“道具”でもある。パターンやポケット配置、素材選定は業務効率に直結する。JALは利用者の声を組み込み、現場の課題を解決する設計にした。

Q3. 自社に落とし込むには何から始める?
A. まずはブランドの核(色・形・モチーフ)を1枚のムードボードにし、現場ヒアリングと並走させる。次に“最低限の選択肢”(ボトム2型、シューズ2型)を用意し、短期パイロット導入で効果を測る。


9. WANSIE UNIFORMからのご提案

WANSIE UNIFORMは、JALのような一貫性・機能性・インクルーシブを三位一体で実装する制服設計を提供します。デザインだけでなく、現場のオペレーション、サステナ素材選定、ローンチ広報までワンストップで伴走。国際展示会・空港・ホテル・金融・医療など多業種での導入実績を踏まえ、御社ならではの“信頼感の形”を共創します。まずは課題や理想像をお聞かせください。


10. まとめ

JALの新ユニフォームは、単なる“見た目の刷新”ではなく、国際的信頼を獲得するためのブランド戦略そのものだ。鶴の曲線が描く所作の美、チャコールグレーの落ち着き、パンツ導入に象徴されるインクルーシブ設計、そして顧客とともにつくる開発プロセス——。制服は、人と企業と社会の信頼をつなぐ橋である。その橋を、御社の現場にも。